シフト制労働の交渉解決事例
『シフト制』とは、1週間や2週間、あるいは1カ月単位といった形で、労働者と管理者との間で作成される「シフト表」によって最終的な労働日・労働時間が確定される働き方を指します。多くの飲食店では、ほとんどの場合『シフト制』での働き方を採用している会社が多いと思います。
このシフト制労働は、家事育児を抱える主婦層や、学生など、フルタイムで働くことが困難とされる方々に一定の需要があるとされ、この間大きな広がりを見せてきました。しかし、労働時間や労働日を使用者の都合で一方的に変えられたり、シフトに入れてもらえない(シフトカット)などの問題や相談が相次いでいます。
労働契約書や労働条件通知書に、労働時間や労働日が記載されていたとしても、「シフトによって変動する可能性がある」といった旨の文章が記載されていることがほとんどで、この文言があることで使用者側が人員の調整としてシフトカットを行ったり、労働者の意に反する実質的なシフトの強制なども行われています。
また、コロナ禍では特に、休業や時短営業などにより従前より大幅なシフトカットが行われても、確定シフトが出ていない期間については休業手当が支払われないという問題も頻発しました。そのようなシフト制労働者の救済のため、飲食店ユニオンは多くの企業との交渉や、国への働きかけを行ってきました。このページでは、飲食店ユニオンで扱ったシフト制労働に関する事例集を紹介します。
・とんかつチェーンの株式会社かつや勤務の男性
37.5度以上の発熱で新型コロナウイルス感染の疑いが高い社員が、度々店舗に出勤していたことに対し、感染拡大を恐れたアルバイトらが出勤拒否(ボイコット)した事例。
アルバイトらのボイコットに対し、会社は一方的に大幅なシフトカットを行った。
(それまでは週5日・1日11時間働いていたが、3分の1に減少させられた。)
契約書では、労働時間欄に「月120時間以上」という記載があり、社会保険にも加入していた。しかしシフトカットが行われたのち、労働契約上の所定労働時間が一方的に「月120時間以下」に変更され、社会保険も脱退させられた。
シフトの回復を求め団体交渉ののち、和解審判を行い、会社側が解決金を支払う形で和解。
その後、シフトも回復され、現在も継続して勤務をしている。
・フジオフードシステムが運営するカフェで働くパート女性Mさん
2020年4月8日~5月下旬まで勤務店舗が休業し、就労ができなくなった。
それまでは週に4日、1日約5時間勤務し、毎月約10万円の収入を得ていた。
休業期間中、パートアルバイトらへの休業手当は出されず、収入は1万5千円まで激減した。しかし一方で、正社員には100%の休業補償がされていた。
Mさんはパート仲間らとユニオンへ加入し、団体交渉を行ったが、会社は「店舗の休業は商業施設の閉鎖によるものであり、会社の責に帰さない」と休業手当の支払いを拒否し続けた。
その後、Mさんが勤務する店舗が閉店し他店舗へ異動となったが、シフトカットに遭い、週1~2程度の勤務となってしまった。
現在は、休業手当の不払いと、正社員とパートに対する非正規差別、シフトカット分の休業補償を求めて裁判闘争中。
・学生アルバイトとして居酒屋で働いていたBさん
勤務店舗が2020年4月に休業となったことで、月収が10万円から0となった。
Bさんはバイト収入と奨学金で学費と食費などの生活費を賄っていたため、生活不安と困窮に陥った。
同店舗で働く他の学生バイトとユニオンに加入して全学生アルバイトへの休業補償を会社に求めた。 団体交渉の場で会社は、休業補償の支払を雇用保険加入者に限定していると回答し、また、「『遊ぶ金』がほしいための休業補償はできない」との発言もあった。
こうした会社の対応を「休業補償の学生差別」問題として記者会見で告発したところ、会社は学生アルバイトを含め全従業員への通常給与10割の休業補償を行うとホームページ上で発表した。
・株式会社イートウォークは、有機野菜を使ったレストランを約20店舗経営する企業である。そのレストランのひとつでアルバイトとして働いていたKさんとSさん
週に40時間超働いていたが、コロナ禍で店舗が
1か月半に渡り休業となり、その後、再開してからは正社員のみしかシフトに入れてもらえなくなり、収入が激減。休業手当は一切出ず、生活が困窮した。
飲食店ユニオンへ加入し、休業手当の支払いを求めて団体交渉を行った。しかし会社は「シフトが決まっていない期間は予定している労働があるとは言えず休業とは認められない」として、休業手当の支払いを拒否した。
団体交渉を重ね、一部期間についての休業手当と、それ以外は休業支援金の申請に協力させることで和解した。
休業支援金について、当初会社は協力を拒否していたが、厚生労働省が『シフト制労働者にも休業支援金を適用できる』と公表したことや、ユニオンでの交渉によって、申請への協力に同意した。
・従前は週40時間働いていた50代の男性アルバイトKさん
新型コロナ禍でシフトが大幅にカットされ、週24時間にまで労働時間が減少していた。休業手当は一切支払われなかった。
Kさんは富士そばでのアルバイト収入のみで生活していたため、今後の生活に大きな不安を感じた。
飲食店ユニオンに加入し、シフトカット分について通常給与10割の休業手当支払いを求め会社と団体交渉し、記者会見も行った。
その後、富士そばで働くすべてのアルバイトへの通常給与10割の休業手当支払いを勝ち取った。
・ラーメンチェーンの一風堂でアルバイトとして勤務する組合員らは、2020年4月と5月に完全休業となった。
確定シフトが出ていた4月15日までの期間は、労基法26条の最低限である平均賃金6割の休業手当が支払われたが、シフト未確定期間は無補償であった。また、その後も大幅な労働時間削減(シフトカット)が行われた。
従前16万円~18万円の月収から、5~6万円まで減っている。
団体交渉を重ね、組合員らが納得する金額での和解、及びシフトカットされた部分に関して、全社的に休業支援金への協力を取り付けることができた。
・イタリアンレストランKで働いていた50代男性アルバイトのAさん
週に5~6日(1日10時間半)の勤務から、コロナ禍で労働時間の大幅削減、その後2020年4月8日から5月末まで完全休業となった。
Aさんは同僚と共に飲食店ユニオンへ加入し、団体交渉を申し入れ、通常給与10割分の休業補償を要求した。団体交渉の場で、会社は「店舗が入っている商業施設が閉鎖したことを理由とする休業であるため、会社都合の休業ではなく、休業手当の法的義務はない。また、Aさんはシフト制だが、シフトが組まれなくなっただけで休業ではない。」との主張で要求を拒否した。
その後、飲食店ユニオンで会社前抗議や記者会見を行い、本人たちの満足できる金額で解決金を支払わせ和解した。
・飲食店に野菜を卸す野菜卸業者で働いていたSさん
週5日、21時から翌朝6時の夜勤を行っていた。新型コロナ禍でシフトを一方的にカットされ、その後、「しばらく仕事はありません」と会社から言われた。さらに、「もう仕事はないので、退職してください」と言われ、アルバイトは全員退職に追い込まれた。
Sさんは休業手当が出ていないのはおかしいと飲食店ユニオンに加入し、団体交渉を行った。会社は「シフト労働者だから、休業に当たらない」と休業手当支払い義務を否定した。しかし、粘り強く交渉し、半年分の休業補償を解決金として勝ち取ることができた。