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  • 執筆者の写真union2000seinen

株式会社大勝軒TOKYO、月300時間という過労死水準の超長時間労働と時給換算683円という超低賃金の驚くべき労働実態。

 つけ麺やラーメンで有名な「大勝軒」を運営する「株式会社大勝軒TOKYO」では、壮絶な長時間労働とパワハラによって店長のAさんが苦しめられ、この度、飲食店ユニオンに加入しパワハラについての慰謝料や未払い賃金の支払いを求めて2021年11月、提訴しました。既にパワハラについては様々な記事で紹介されていますが、Aさんはパワハラだけではなく、超低賃金・超長時間労働によっても苦しめられていました。Aさんは、時給換算すると683円という超低賃金で、過労死水準を大きく上回る月300時間の労働を強いられていたのです。その驚くべき実態を紹介します。


〇過労死水準の労働時間と最低賃金を大きく下回る低賃金

 今回提訴したAさんは、2015年から大勝軒でアルバイトをはじめ、2018年3月から正社員の店長となりました。店舗の営業時間は11時から22時で、店長であるAさんは営業時間はもちろんその前後の準備・片付けもしなくてはならないため、毎日概ね10時に出勤し、退勤は23時半となっていました。休憩を1時間とれたとしても12時間半の労働が常態化していたのです(コロナ禍で営業時間が短縮となりましたが、それでも10時間半程度の労働をしていました)。

 1日12時間半の労働を週6日で行っていたとすると、1か月(4週間・24日)の総労働時間はおよそ300時間です。1週間40時間を法定内の労働時間として、それ以外を残業時間と考えますと、およそ月140時間の残業をしていることとなり、これは過労死水準を大きく上回る水準です。

 では、こうした過労死水準の労働時間に見合った賃金を受け取っていたのかと言えば、決してそんなことはありません。給与は所定労働時間である7時間半分しか支払われず、2018年度の月給は19万5000円、2019年度以降は20万5000円でした。

Aさんの2019年度の月給20万5000円を、月およそ300時間の労働時間で時給換算すると、時給683円になります。東京の最低賃金は現在1041円ですので、最低賃金を大幅に下回る賃金で働かされていたと言えます(労基法に則れば1日8時間を超える労働時間や夜22時以降の労働には割増賃金が支払われなければならないので、それを加味するとさらに時給換算額は低くなります)。

 恐ろしく低い賃金で、過労死水準の長時間労働を強いられていたのです。Aさんは裁判で、未払いの残業代を中心に合計737万円の未払い賃金があるとして、請求しています。


〇「管理監督者」は残業代が支払われない?

 Aさんの残業代請求に対して、会社は、Aさんは管理監督者だから残業代を支払う義務はないと主張しています。どういうことでしょうか。

 労働基準法では、「監督若しくは管理の地位にある者」=管理監督者であれば、労働時間や休日に関する労基法の規定が適用されないとされています。会社は、Aさんはこの管理監督者に当たるため、残業代を支払う必要がないというのです。確かにAさんは「店長」だったので、「管理監督者」と言われれば、「そうなのかな」という気もしますが、実は役職名などが管理者らしくても「管理監督者」になるとは限りません。

 判例では、「管理監督者」と見なされる条件として、①実質的に経営者と一体と見なせるような重要な職務や責任や権限を与えられていること、②労働時間を自由に決められること、③一般従業員に比較して賃金上の待遇が高いこと、などが指摘されています。これらの要素を総合的に勘案して、その労働者が、管理監督者かどうかが判断されるのです。すなわち、就業実態や待遇が経営者とかなり近く労基法の保護が必要ない人が、ここで言われる「管理監督者」なのです。

 果たしてAさんは、これらの基準に照らして、「管理監督者」であると言えるのでしょうか。

 まず、Aさんの働く店舗の営業時間は11時から22時であり、その前後に準備や片づけをするのですが、Aさんはこの間ずっと店舗にいなければならず、労働時間を自由に決定できるはずがありません。その結果、ほぼ毎日、朝10時から夜23時まで働いていました。また賃金は月給で20万円前後であり非常に低賃金です。とても「管理監督者」という立場にふさわしい賃金をもらっていたとは言えません。さらに、料理のレシピや使う食材・調味料などはあらかじめ本社に決定されており、Aさんの業務は、注文を受けラーメンを提供する事とそれに伴う諸々の準備作業でしかなく、スタッフの採用も本社によってなされていました。つまり、実質的にはほとんど裁量を与えられていないのです。

 全体として、「管理監督者」にふさわしい権限・責任や裁量や待遇がAさんに認められていたとは到底言えません。

 

〇飲食産業における「周辺的正社員」の苦難

 人件費比率が高い労働集約的な産業である飲食産業では、激しい価格競争のなかで生き残るため、また頻繁な需要変動に応じたコストの調整のため、人件費の弾力化・削減が大きな課題となっています。こうした人件費弾力化・削減の1つの典型的な手法は、シフト制で働くパート・アルバイト労働者の大量活用です。飲食産業は、パート・アルバイトの全労働者に占める割合が72.5%(2017年就業構造基本調査)と他産業に比べて極端に高くなっています。これによって、基本的な人件費を抑制するとともに、需要に応じた人件費調整を可能にしているのです。

 そしてもう1つの人件費弾力化・削減の手法が、低賃金で長時間過酷な労働を正社員に強いることです。そもそも、パート・アルバイトの割合がこれだけ高まり正社員が少数精鋭化されている中で、正社員の負担は非常に大きくなっており、その結果長時間労働がまん延しています。しかし賃金は非常に低水準に抑制されています。最低賃金に張り付いた低賃金しか支払わず、さらに残業代を違法に未払いとしておくことで、人件費を抑制しているのです。

 この間、従来の年功賃金+終身雇用の「年功型正社員」とは異なり、低賃金で過酷な労働を強いられる「周辺的正社員」や、その「周辺的正社員」を使いつぶす「ブラック企業」の増加が問題になっています。飲食産業は典型的な「ブラック企業」産業の1つであると言えるでしょう。

 このようななか、残業代支払いを免れるために活用される手法の1つが、店長=正社員を「管理監督者」として扱うことです。しかし、上で見たように、「管理監督者」にふさわしい待遇が認められることが「管理監督者」と判断される重要な判断基準の1つとなっておりますので、人件費削減の為に「管理監督者」扱いするというのは本来矛盾しています。飲食産業の店長=正社員を「管理監督者」扱いして残業代支払いを免れる手法は、違法である場合が多いと言えるでしょう。

 良質なサービスの提供のためには、労働者の熟練・技能や経験の蓄積が不可欠ですが、この劣悪な労働条件では労働者の企業・産業への定着は困難です。実際Aさんも、過酷な労働に耐えきれずに、会社を辞めざるを得ませんでした。飲食産業のためにも、労働条件の改善が喫緊の課題です。

 お困りの方は、飲食店ユニオンにぜひご相談ください。


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